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2015年 05月 24日
林道の終点から宿まではすぐのはずだが、いくら走ってもそれらしき建物は現れない。これは(もう下界に着いた)という安堵感からくる錯覚で、実際は数キロの距離を残しているのである。 県内最長を誇る一級河川である。 橋の袂で地図を確認していると、ある事に気が付いた。 『ははあ、成程・・・なあメイ、今夜の宿の名前、覚えているか?』 『四季美谷(しき・みたに)温泉でしょ?地図にも載ってるし。名前からして、最近できた宿じゃないかなあ。』 『違うんだな、それが。正しい読み方はしきびだに温泉。』 『なんでまた、そんな鼻が詰まったみたいな発音に・・・』 『ほら、そこの橋の名前を見てみろ。』 親柱に彫られているのは≪樒谷橋≫の文字。 『読めないんですけど、漢字。』 『反対側に平仮名で書いてある。』 『はいはい、えーっと、しきみだにばし・・・あっ、分かった!』 『うむ、きっとこの谷の名前を当て字にしたんだろう。宿に着いたら確認してみよう・・・という事は、もうすぐ着くな。』 案の定、宿の建物はすぐに見えてきた。 植物の呼称ではあるが。 意外な程リーズナブル。 『じゃ、オマエも明日の朝までゆっくり休んでくれ。』 玄関横のスペースにメイを駐輪。チェックインは15時20分、これらならゆっくりくつろげそうだ。 『あの・・・やっぱり食べるんですか?鹿さん・・・残酷だなあ。』 『まだ言ってる!』 農林業に深刻な被害を与える野生動物を捕え、新たな食材として観光資源にする・・・という取組みは、近年全国各地で行われている様だ。この宿では特に鹿肉が売りで、調理済みの肉が館内の売店でも販売されている。 まずは一風呂浴びて、レストランで早速ビール。当ては鹿肉の低温ロースト。おっと、地元産の木沢豆腐の冷奴も頼もう。うん、美味い!ビールもう一杯。山菜の女王、コシアブラとハリギリの天婦羅ってのも美味そうだ。こりゃ酒が進むわい・・・。 あっという間に酔っぱらい、部屋で一眠り。夕食時間に再びレストランへ。今度は鹿肉ロースステーキとあめごから揚げ定食で、ここはやっぱり赤ワインでしょ。ああ、もうお腹一杯・・・。 ああ、帰りたくない・・・ 一回だけ。 翌朝、チェックアウトの際に尋ねてみると、宿の名前はやはり樒谷のあて字であった。実は以前はこの場所ではなく、文字通り樒谷の下部にあったとの事。土石流の災害に度々見舞われ、リニューアルも兼ねて移築したそうだ。 『メイ、おはよ。』 『おはようございます。ああ、どこからか悲しそうな鹿さんの鳴き声が・・・』 『もう、そう言うなって。ところで、フロントで聞いた情報だけどな。どうやら県道16号線の取り付きが工事中で、う回路に回らなければいかんらしい。』 『それは仕方ないですね。』 『うむ、大勢に影響はないと思うがな。』 これが大いに影響を及ぼすのだが、そんな事は露知らず、我々は渓谷沿いの道をのんきに出発したのであった。 落下口が独特。 本日の予定は、県道16号線の八重地峠(トンネル)を越え、上勝町に降りた後、再び林道を利用して山越えしてデポ地に戻る、という強硬スケジュールである。なにも二つも峠越えしなくとも、国道193号線の雲早峠(トンネル)を経由すれば最短距離だし、ピーク越えも一つで済むのだが、このルートは将来予定している≪酷道193全線走破≫のプランに取っておきたい。どうしても無理ならエスケープルートでなんとかしようと思っている。 『エスケープルートって、そんなコースって取れましたっけ?』 『ま、その時に説明しよう。おっと、あれだろう。工事中の看板が出ている。』 案内板によれば、国道193号線を高知側に少し下ったところから、県道に合流するルートを示している。平面で見ると、たいして距離は変わらないように見えたのだが・・・取り付き地点から坂を上り始めて、我々の目は点になった。目の前に昨日の林道以上の急坂が、壁の様に立ちはだかっているではないか! 『なんじゃこの坂は!こんなもん、登れるかーっ!』 『こ、これは酷い・・・』 流石のメイも呆れる程の激坂である。茫然と立ちすくんでいると、正面から下って来た軽自動車が平然とすれ違っていく。 『運転してた女の人、クスッて笑ってませんでした?』 『・・・呆れたんだろう。やれやれ仕方ない、押して登るか。』 道路脇の銘板によれば、この道は≪林道 名古ノ瀬与沢線≫であるらしく、自転車の通行など全く想定していないのも道理。30分以上押し登り、ようやく県道に合流したのは9時5分。ここから先はまともな坂道のはずだ。 少しは勾配が緩くなった道を20分程登ったあたりで、メイが叫んだ。 『あっ、鹿さん!』 『おお、結構デカいな。角があるから雄か・・・あれ?何か様子が変だそ。』 鹿は逃げなかった。いや、逃げられないのだ。前足の一方、足首あたりに食い込んだ罠は、彼がどれほど暴れても取れる気配はない。もんどりうとうが、支柱に体当たりしようが、勢いをつけて飛び上がろうが、罠は非情に食い込んでいくだけだった。 私はしばらくそれを茫然と見ていたが、我に戻ってペダルを踏んだ。何か、見てはいけないものを見てしまった気がする。 『流石に可哀そうになってきた。』 『・・・けど、食べたんでしょ?』 『うむ。野生動物の食害減少と名物食材という一石二鳥・・・そういう単純な事象ではないのだな。そんなのはあくまで人間の理屈なんだし、殺される彼らは不本意極まりないだろう。しかし、それでも食べなくちゃ、食べてあげなくちゃいかんと思う。』 『・・・・』 人間はそうする他、ないのだ。ただし、そこに食べられる側への尊厳を意識する義務はあるだろう。それが我々の、彼らへのせめてもの罪滅ぼしと思いたい。 たいして眺望も良くない坂道を登り詰め、10時30分、八重地トンネルに到着。ここから上勝町中心部までは、以前逆方向から走った事がある。 『しかしここで10時半か・・・。』 『時間的にちょっとヤバいんじゃないですか?』 『そうだな。とにかく下ってから最終判断だ。』 う回路の押し登りに時間を食われたのが痛かったが、それよりも出発時刻が遅かった事が主原因だろう。しかしおかげで贅沢な時間を過ごせたのだから、これは文句を言ってはいけない。 ぶっ倒れた場所である(シクロツーリストVol.4、83ページ参照)。 編集長、ゴメンナサイ(笑)! 急坂を一気に下って、上勝町中心部に到着。当初予定のコースは、剣山スーパー林道を少し入ったところから山越えの道を登る事になる。が、この時点で11時10分。とても冒険できる時間ではない。 『仕方ない、コース変更だ。』 『ですね。ところでエスケープルートって言ってましたけど、どんなコースで?』 『なに、剣山から延びる尾根筋を、徳島側に迂回するのだ。ただそれだけ。』 『なるほど・・・ってそれですか!相棒さん、やっぱり根性無しだあーっ!』 『まあそう言うな。途中、ラーメンでも食って帰ろう。』 ハードな林道ツーリングは、いつも通りの締まらないクライマックスを迎えたのであった。 (この項、終わり)
by james_y1964
| 2015-05-24 09:01
| 『足の向くまま同行二輪』
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Comments(9)
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ミウラSV
at 2015-05-24 10:43
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こちらでは初めまして!
四国と北海道は自分にとって未踏の地。やはり風景が違いますね。 >樒谷 昔ながらの地名というのは、その土地土地の歴史的背景もあったりして、興味深いものがあります。 地元の料理もおいしそう! >『なんじゃこの坂は!こんなもん、登れるかーっ!』 まさに壁のごとく立ちはだかってますね~。九十九折れならともかく直線だと心の方が折れますなぁ。 何はともあれお疲れ様でした。
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james_y1964 at 2015-05-24 10:58
ミウラSVさん、いらっしゃいませ!
未踏の地、私にとっては東海~関東周辺でしょうか(御前崎周辺は除く)。ぜひ四国にもお越しくださいね! 料理は良かったですよ~。豪華会席料理のような派手さはありませんが、現実にはこのくらいの量で充分。料金もお手頃でした。 >九十九折れならともかく・・・そうそう、そうなんですよね。いやはや、参りました。
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田中真由美
at 2015-05-24 20:01
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道路対岸に立つ、四季三谷温泉 ×
道路対岸に立つ、四季美谷温泉 〇 の、ジェームスさん、当て字違いでは、ないでしょうか。泊まらせて戴いたときの食事の内容を忘れてしまっています。仰せの通り、旅館の食事の品数は多すぎますよね。それくらいが丁度は、わたしも賛同です。鹿肉のことは、淡路島や六甲山でもそうらしくて。美味しいですね。牛より好きだけど、普通の市場では買えないここ大阪です。当初案のコースですが、その部分をわたしも行くつもりでした。この前の連休のとき。霧越峠が不通で、同じく迂回です。日和佐から北へのコースに変更という。193号線は次回のお楽しみですね。事前確認をお忘れなく。わたしのようになりますから。海部川沿いの道の素晴らしさに感動。もうひとつの四国を発見した気分でした。^^
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james_y1964 at 2015-05-24 20:38
田中真由美さん>あっりゃー、こりゃ完全に誤植ですね!ご指摘ありがとうございます。ただちに訂正、と・・(大汗)。
当初案は5万図でみてもかなり怪しいルートでして、時間的にどうかと思い、却下としました。この周辺にはほかにも魅力的な林道がありますので、いつか再訪してみたいと思います。 事前確認>御意。特に193号線は通行止めがしょっちゅうです。夏場(=台風シーズン)は要注意ですね!
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ボードマン
at 2015-05-24 21:12
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素晴らしいコース、眺望、グルメ。
いい旅じゃないですか〜〜羨ましい。 今、マウンテンバイクが楽しくて 650Aもブロックタイヤにしてまおう かしら〜〜なんて妄想中。 RDを換装しないとSLJでは、怖くて オフには入れませんねー 時間が合えば、高松へは船便一本なんで またお誘い下さいm(__)m
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james_y1964 at 2015-05-26 03:26
ボードマンさん、えがったですよ~。充実したバカンスでした。欲を言えば、林道ランは稜線走りが一番いいのですが(今回は登って下るだけ)、まあ贅沢言っちゃあいけませんね。
SLJでダート?ブルブルブル、恐れ多くて乗れません! 私も船に乗ってそちらに遠征したいですー。輪行がいいかな?
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田中真由美
at 2015-05-26 11:52
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そうや、通販で鹿肉をと、
http://www.jingisu.com/shop/ 今、このお店に注文しました。とりあえず http://www.jingisu.com/shop/item_detail?category_id=115483&item_id=966975 http://www.jingisu.com/shop/item_detail?category_id=115483&item_id=1153712 このふたつ。食べて美味しかったら、ご報告しますね。むかし、野迫川村の民宿さんで食した、鹿の額の肉ほどはない美味しさだろうけど。これは生で。鹿肉の生は現在、厚生労働省さんから注意のお達しみたい。でも、食べる人の自己責任で可のようです。^^
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真由美
at 2015-05-30 03:47
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昨日、届きまして、食べたけど、・・・。スペアリブのほうはいまだです。焼肉のタレと生姜醤油の二通りで食しました。少し焼き過ぎたのが原因なのか、牛焼肉食べ放題店のそれに似ています。生、又はタタキで食べたほうがよいのかな。あとは、分厚く切ったものをステーキでとか。今度はシャブシャブにでもしようかと思います。^^
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james_y1964 at 2015-06-14 07:59
田中真由美さん、返信遅れまして大変失礼しました!
通販・・・そんなのもあったのですね。そいや、行きつけの焼肉屋(チェーン店)のメニューからレバーが消えました。生で食べるわけではないのですが、店側は用心するのでしょうね。 ジビエがあっちゃこっちゃで気軽に食べられるようになるのは嬉しい反面、珍しさが薄れて有難味がなくなるかも?
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